キャッシュレス利用率11.6→39.7%に|学生の意識を変えた近畿大学の取り組みとは

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国のキャッシュレス還元事業の取り組みや、新型コロナウイルスの感染予防の観点から注目されているキャッシュレス決済。

クレジットカードやICカードに加え、コード決済やスマホ決済など選択肢が増える中、大学としていち早くキャッシュレス浸透に取り組んできたのが近畿大学です。

お話を聞いた方

近畿大学企画室 上原隆明さん
今回お話をおうかがいしたのは、近畿大学企画室の上原隆明さんです。
学内のキャッシュレス化の取り組み事例やキャッシュレス決済浸透の課題、今後の計画について詳しくお聞きしました。

キャッシュレス化の意外なハードルは学生の「マインド」

近畿大学では、2016年からは1つの学部で、その翌年から全学部の新入生に「学生証一体型VISAプリペイドカード」を発行するなどし、大学全体でキャッシュレス化に取り組んできました。

▲Visaプリペイド付学生証

機能を充実させたり、ポイントを付与したりするなど、キャッシュレス決済の浸透を目指してさまざまな工夫をしてきましたが、なかなか利用率が上がっていきませんでした。

あるとき、上原さんが学内のコンビニで学生の様子を見ていたところ、現金レーンに並んでいる学生ばかりで、キャッシュレスレーンがガラガラだったといいます。

―学生さんがキャッシュレス決済を利用しない理由は何だったのでしょうか

アンケートやヒアリングをしてみたのですが、「お金を電子でやり取りするのに抵抗がある」「口座を結びつけるのが面倒」「パスワードとか怖い」など、抵抗感や怖さが先に立っているようでしたね。
Suicaなどの電子マネーはすでに使っている学生が大半ですから、いったん使えるようになればそれなりに使うのでしょうが、最初のハードルが高かったみたいです。

―若い学生さんたちでもそういう怖さがあるんですね

若いからといってなんでもデジタルに強いっていうわけでもないんですね。パスワードを使いまわしているような学生もいましたし。

これはもう、例えば100ポイントや200ポイントあげたところで使うようにはならないなと思いました。

―そんな状況の中で、キャッシュレス化に向けてどのような取り組みをおこなったのでしょうか

1つは、大学祭でのキャッシュレス決済利用を可能にしました。
大学と大学祭実行委員会が検討を重ねて、2019年に「屋台でキャッシュレス決済が利用できるようにしよう」と企画を上げました。

▲大学祭での屋台

―学生さんの反応はどうでしたか

最初の説明会では、屋台を出す学生は「面倒くさそう」が8割で「やってみたい」が2割くらいでしたね。

「キャッシュレス決済とは」から始めて、利用者側と出店側双方の使い方まで、決済企業からの協力も得て大学祭実行委員会と大学側が一緒になって周知活動を頑張りました。

―当日の利用率や評判はどうでしたか

全体の利用率は1~2割くらいでした。地域の方々もいらっしゃるので予想はしていましたが、もうちょっと多いかなと思っていました。

でも「近大はこういう先進的なことをやるんだぞ」というPRはできたと思いますし、「使ってみたら便利だった」という感想もあって、概ね好印象でしたね。

当日はLINEPayさんとメルペイさんからスタッフの方が来てくださって、トラブルの際はサポートしていただく体制にしていましたが、トラブルはほとんどなかったようです。

▲LINEPayとメルペイのサポート

学生食堂もキャッシュレス化に挑戦

―学園祭のほかに、学生食堂でもキャッシュレス決済の取り組みがあるそうですね

2019年9月に、新しい学生食堂をオープンしました。

「アンダーアーマー」の正規日本ライセンシーである「株式会社ドーム」とのコラボで、その食堂ではキャッシュレス決済をメインにしています。

▲2019年9月にオープンした新学生食堂

―新食堂でのキャッシュレス決済利用率はどうですか

2020年1月時点で、新食堂単体での決済件数のうち約5割はキャッシュレス決済という結果が出ています。

学内の全食堂のキャッシュレス決済の件数も、新食堂がオープンした後に39.7%まで上がっています。2019年の4月の時点では11.6%でしたので、新食堂のキャッシュレス決済の影響を受け、他の店舗も引っ張られているのではないかと思います。

―利用率増加を達成した一番の要因は何だと思いますか

新食堂は、現金レーンとキャッシュレスレーンのうち、キャッシュレスレーンの数を多くしました。現金レーンは本当はなくしたかったのですが、一応残した程度です。

キャッシュレスレーンの方が圧倒的に早く会計が済みますから、だんだんと「あっちの方がいいな」と思ってもらえるのを狙って。

以前コンビニで現金レーンに長蛇の列ができていたのを見てから、これはもう「現金は使いにくい」と思ってもらう方がキャッシュレス化が進むと思ったんです。

あとは、内装を近未来的なおしゃれな感じにしていて「行きたくなる」ような店づくりをしたことでしょうか。学生食堂というのは複数人で利用することも多いですから、友人を誘って行ってみたくなることが大事だと思っています。

―新食堂はアプリで注文から決済までできるのですね

そうですね。そういう便利さも「使ってみたくなる」気持ちを持ってもらえるきっかけになると思います。

キャッシュレス化への課題は?

―世間的にもキャッシュレス決済を導入したいお店や自治体は多くあると思いますが、いち早く浸透のきっかけを得た近畿大学さんから見て、キャッシュレス化を進めるうえで障壁になりそうなことは何でしょうか

やはり最初のコストの問題は大きいと思います。

私たちの取り組みは、大学自体がカルチャーとして「挑戦」をプッシュしていますし、キャッシュレス事業者さんにとっても実験的な取り組みということで大幅にコストを圧縮できる部分もありました。

それに、負担を減らすようなサポートもいただけました。

例えば「決済サービスによって入金サイクルがバラバラで管理が煩雑」という課題に対して、複数のサービスを一括で導入できるようなシステムを入れてもらえたというような感じです。

―一般の店舗でもそういうシステムがあると、負担が減ってよりキャッシュレス化が進みそうですね。

そうですよね。スタートは大変ですが、やはり利用率が5割を超えてくると次の提案もしやすくなりますし、もうインフラとして定着しますよね。

キャッシュレスはもはや「先進的な取り組み」ではなく「インフラ」

―学園祭での取り組みと新食堂の成果を得て、今後のキャッシュレス展開はどうしていくのですか

今後は、学内のロッカーや構内移動用の電動キックボードを完全キャッシュレスで利用できるように動いています。

ロッカーはスマホでロックを操作できるようにして、利用料の決済はもちろん完全キャッシュレスです。

電動キックボードは、今後公道で利用できるよう法改正の動きがあるので、その実証実験の位置付けで、先駆けて私道でもある大学キャンパス内で利用できるように準備をしています。スマホのアプリ上で利用手続きや支払いができるようにするイメージです。

このように、今後学内で新しく進める取り組みについてはキャッシュレスを前提にしていきます。

これからキャッシュレスは、ただ「便利」ということではなくインフラとして生活の基盤になっていくでしょうから、近畿大学ではいち早く学生にその体験をしてほしいと思っています。

今後も、さまざまなサービス事業者さんとつながってキャッシュレスの取り組みを続けていけたらと思います。

感染症予防の観点からも現金を触ることに抵抗がある人もいるでしょうし、キャッシュレスに対する意識の変化があるといいなと思います。

まとめ

トレンドに敏感な若者でもキャッシュレスへの抵抗感が強いというのは意外でしたが、その中でも着々とキャッシュレス利用を促進させることができたのは、仕組みとマインドの両面からのアプローチが功を奏したからではないでしょうか。

現金レーンの縮小やアプリ注文・決済など、キャッシュレスを「使ってもらえる」仕組みを整えたことで、学生は便利さを実感する体験を積み重ねました。
「便利だ」と感じることでキャッシュレスに対する学生のマインドが少しずつ変わり、結果としてキャッシュレス決済利用率の増加に結びついたといえます。

以前、(株)キュービックの「キャッシュレスラボ」でおこなった調査では、店舗側がキャッシュレス決済を導入できない大きな理由が「コスト」でした。

導入の手数料など直接かかるコストや煩雑な管理にかかる人的なコストを圧縮し、事業者にとっても利用者にとっても使いやすくしていくことがキャッシュレス浸透のカギになるのではないでしょうか。

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