お金の地産地消って何?!デジタル地域通貨プラットフォーム「MoneyEasy」が地域経済活性化の切り札に

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ここ数年、地域経済活性化のためのデジタル地域通貨に注目が集まっています。

その成功事例として名高い、岐阜県飛騨高山地域の「さるぼぼコイン」をご存知でしょうか。「さるぼぼコイン」はデジタル地域通貨プラットフォーム「MoneyEasy」の開発とともに誕生したといいます。

「MoneyEasy」の生みの親である株式会社フィノバレーの川田修平さんに、デジタル地域通貨の現状と今後の展望について、お話をうかがいました。

※記事内データは取材時2020年11月現在の情報です。

お話を聞いた方

株式会社フィノバレー代表取締役社長 川田修平(かわた しゅうへい)さん
デジタルテクノロジー×地域通貨の可能性にいち早く着目し、デジタル地域通貨プラットフォーム「MoneyEasy」の企画・開発・運用を手がける。
そのプロジェクト通して地方自治体が抱えるさまざまな問題解決に取り組んでいる。

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MoneyEasyとは

株式会社フィノバレーが提供するデジタル地域通貨プラットフォーム。チャージから決済までスマートフォンアプリで完結する。
店舗に置かれたポップでQRコードを読み取る決済方法で、加盟店側の導入費用や複雑な手続きも不要だ。金融システムの派生として開発された堅牢で安全性の高い決済システムをもち、B to B(企業間取引)にも活用できる。
岐阜県飛騨高山地域の「さるぼぼコイン」や、千葉県木更津市の「アクアコイン」などに活用されている。

「MoneyEasy」の開発にあたって

―「MoneyEasy」開発の背景や経緯について教えていただけますか?

全国の多くの地方自治体では少子高齢化により人口が減少しています。その中でも特に生産人口(15歳以上65歳未満)が著しく減少し、日本全国でも1995年の8,726万人をピークに、20年先には6,000万人を下回ると予測されています。

都市圏以外の地域は、その減少が更に激しくなる見込みです。地方の金融機関は、その未来を見据え、地域経済をどのように維持していくかという課題を抱えていました。

飛騨信用組合さまでは、電子地域通貨の企画の前から、クラウドファンディングや地域ファンド「さるぼぼ倶楽部(店舗組合の割引券)」など、さまざまな取り組みをされていました。

またインバウンド観光に力を入れていた飛騨高山は当時から中国人観光客が多く、そのことが電子地域通貨の企画につながりました。

日本でPayPayなどのコード決済が普及する前から、中国でAlipayやWeChat Payのコード決済が爆発的に普及していたのを目の当たりにしていたのです。

1年以上の検討を経て、開発フェーズから弊社も参画させていただき、2016年秋から「さるぼぼコイン」の開発がスタートしました。

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さるぼぼコインとは

岐阜県高山市・飛騨市・白川村で利用できる飛騨信用組合発行の電子地域通貨
2017年12月に運用を開始し、2020年11月現在、登録ユーザー数は約3.5万人、飲食店・スーパー・ドラッグストア、観光事業者などの加盟店は約1,800店に達している。
飛騨信用組合のほか、全国のセブン銀行ATMにて1000円単位で10万コインまでチャージ(1円=1コイン)が可能。
チャージするごとに1%のプレミアムポイントが付与される。さらに飛騨信用組合に普通口座があれば、200万コインまでのチャージや円への払い戻しができる。加盟店での現金化には1.5%、加盟店同士の送金には0.5%の手数料が発生する。

―「MoneyEasy」の特長について教えていただけますか?

デジタル地域通貨といっても色々あります。2000年前後に地域振興券が流行りましたが、現状もそれに近い商品券のデジタル版としての地域通貨が大半です。

本格的な決済システムを持ったデジタル地域通貨プラットフォームとしては「MoneyEasy」が日本では今のところ唯一だと自負しています。

端的な特長として、B to Bの決済もカバーできます。売り上げで受け取ったコインをそのまま地元仕入れ業者への支払いに使えるのです。二次流通、三次流通という、いわゆる転々流通ができるのは「MoneyEasy」だけです。

―デジタル地域通貨のことをお金の地産地消とおっしゃっていますが、実際に内需拡大に効果があるのでしょうか?

究極的には、需要が増えない限り本当の意味での内需拡大は起きません。しかしデジタル地域通貨は、域外へのお金の流出を防ぐことで地域のお金や資源を域内で循環させようという取り組みです。

大手キャッシュレス決済サービスを使うと、地域のお金は流出してしまう。そこで発生する手数料や情報も、サービスを展開する東京の大手企業に収集されてしまい、地元では活用することができない。

デジタル地域通貨の場合は地域内でお金が循環しますし、そこで発生する手数料も地域の金融機関が受け取るので域外に出にくいというのがあります。

「さるぼぼコイン」成功の鍵とは

―「さるぼぼコイン」のローンチにあたってはどのようなご苦労があったのでしょうか?

当時はまだキャッシュレス決済サービスが一般化してなかったので、関係者にご理解いただくプロセスでは飛騨信用組合さまを中心に多大な労力・エネルギーがかかりました。ユーザーを集めるイベントをして説明したり、加盟店の獲得も根気強く取り組まれていました。

あと、スマホ持ってない人はどうするんだという議論は常にありました。しかし、カードタイプにするとカードリーダーを設置したり、システム側の対応が何倍も発生してしまうので、そこは割り切って進めてきました。

―決済サービスだけでなく、行政や地元事業者との連携も始まっているようですね。

地域のためのお金というコンセプトを自治体とも共有できていて、例えば「さるぼぼコイン」で行政窓口での手数料を支払えますし、納付書のバーコードを読み取って納税することもできます。

新型コロナウイルスに対する経済対策では、飛騨市でプレミアム商品券の一部を「さるぼぼコイン」で発行しました。また、Go To キャンペーンに絡めた観光支援施策のクーポンを「さるぼぼコイン」で支給するなど、地元自治体や事業者との協力体制も強固になってきています。

地域電力会社から新電力会社への乗り換えも推進しています。電気料金を「さるぼぼコイン」で払うと最大9%分のポイントが還元される仕組みです。

今は売電の領域での取り組みですが、飛騨高山地域では林業の間伐材チップを使ったバイオマス発電や小水力発電など、自然エネルギーが注目されており、発電、送電への領域での連携も検討しています。同じ地産地消という意味で、電力は地域通貨と親和性が高いわけです。

―「さるぼぼコイン」が、デジタル地域通貨の成功例と言われる理由は何だと思われますか?

よく成功例と言っていただけるのですが、まだまだクリアすべき課題は多く、目指すべきところはもっと高いところです。その前提でお話しするなら、飛騨信用組合さんの良いチームに恵まれたということが第一です。

そして、ご一緒に取り組ませていただく中で、歴史的に連綿と受け継がれているこの地域のチャレンジ精神を感じています。インバウンドいう言葉が一般化する前から市長自ら海外に観光業のプレゼンに行ってますし、新しいことへの受容性が高いと感じています。

Uターンなどで戻ってきた30~40代のチャレンジマインドをもった経営者層が多いのも特長です。そういう方々に恵まれて、スピーディーかつ継続的に運用することができたのだと思います。

今後、他の地域でも私たちが媒介することで同様の化学反応を再現性高く起こせるかが、私たちの使命ですね。

キャッシュレス決済サービスの枠を超えて

―「MoneyEasy」の今後の課題はどのようなことでしょうか?

B to Bの取引二次流通を広げることです。現状、二次流通につながっているのは店舗の売り上げの10%にも満たない状況ですから。域内外の卸業者にも協力を仰いでいるところです。

そのためにシステムの追加開発も進めています。B to Bへの利用は、これまでブラウザの管理画面でしかできなかったのですが、来年早々にはスマホのアプリ上ですべて一元管理できるようなります。

そうすれば、売上で受け取った「さるぼぼコイン」をスマホで持ち出して仕入れの支払いに使ったり、請求書に掲載されたQRコード(※1)で簡単に決済できるようになります。

―キャッシュレス決済サービス以外の活用はお考えでしょうか?

今後は、寄付やクラウドファンディングデジタル証券なども視野に入れています。

消費活動によるお金の循環も大事ですが、地域にある金融資産の地域内循環も非常に大事なテーマで、そういった領域への拡張を計画しているのも「MoneyEasy」の大きな特長だと思います。

また、ある自治体では、市民アンケートや投票などの機能の検討を進めています。サイレントマジョリティの市民の声を収拾し、自治体の政策に反映させようという取り組みです。

「MoneyEasy」では取引データなどの情報をさまざまな分析に活用できます。自治体では古いデータを分析に使っていることが多いのですが、ほぼリアルタイムのデータを分析して政策のチューニングに使えます。それにより自治体の意思決定の精度を上げられないかと考えています。

―今後、地域外のユーザーが増えると、さらに活用の幅が広がっていきそうですね。

観光業推進施策としてユーザーの行動解析を使ったサービスも検討されています。

例えば、東京都港区のセブン銀行ATMで「さるぼぼコイン」をチャージした人が高山駅に来た時、位置情報と連動したプッシュ通知で「ようこそ」とコミュニケーションをしたり、小さなプレゼント(クーポン)をつけることもできます。

それと関係人口のエンゲージメントを強化するための施策として、故郷やゆかりのある地域に対する思いを高めるコンテンツを、アプリ上で情報発信するメニューを追加したいと思っています。

ふるさと納税とかクラウドファンディングでの関係づくりも進めているところで、地域外のユーザーとのエンゲージメントを高めていきたいですね。

デジタル地域通貨プロジェクトにかける思い

▲グッドマネーラボ理事就任時の川田様

―デジタル地域通貨を一過性のものにしないために必要なことは何でしょうか?

単にお得というだけなら、大手キャッシュレス決済サービスとの差別化ができません。ユーザーにも「地域のためのお金を循環させる」というコンセプトの共有が必要です。

あえて地域通貨で払う意味、相互扶助の意識を感じてもらえるよう、それを可視化する仕組みやブランディングを強化する必要があります。自治体主導の社会福祉・高齢者福祉など、消費活動以外の施策とも積極的に連携していきたいと思っています。

そして持続のためには、ビジネスとして収支バランスをとっていくことも重要です。金融機関と連携し、地域通貨を運営する会社を起業することも視野に入れていく必要があるでしょうね。

―最後に、川田さんの地域通貨プロジェクトに対する思いをうかがえますか?

私はもともとコンサルティング業界にいたので、課題解決に取り組むのが好きなのです。フィノバレーはカテゴリはシステム開発・提供会社ですが、単純にシステムを売っておしまいにはしたくありません。木更津の「アクアコイン」でも、木更津市内にオフィスを借りて、関係者と一緒に悩み、学びながら課題に取り組んでいるところです。

正直、今後人口が減少していく日本において将来的に全ての地域が残っていくために抗うことが正解かわかりませんが、一方で、地域がなくなっていくのは嫌だという思いもあります。地方の美味しいものや人との出会いは、私の人生を豊かにしてくれました。だからこそ関わる人に寄り添いながら、しっかり結果を出していきたいと願っているのです。

まとめ

地元のお金を地元で消費し循環させるデジタル地域通貨。今後も導入事例は増えていくことでしょう。単なるペイメントシステムというだけでなく、行政サービスや観光施策、地域産業との連携で活用の幅は広がりを見せています。

デジタル地域通貨をベースにした経済圏の構築が、シュリンクし続ける地域経済を活性化する切り札となるのかもしれません。

※1QRコードは株式会社デンソーウェーブの登録商標です。

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